“善い”企業の証、B Corp
“善い”企業の証、B Corp2023 05 26

パンデミックから約3年、最近ようやく日本でも徐々に日常が戻ってきている。当時誰も予想しなかった未曾有の状況下に急に放り込まれたことで、多くの人に価値観や環境の変化が訪れた。それに伴い働く環境もリモートワークやビデオ会議は今や当たり前となり、より多様で柔軟な働き方が増えている。パンデミック以降、起業する人の数も世界的に急増しているという事実にも納得できるが、それを聞いてふと思うのがこれからの企業のあり方だ。

一般的に “良い”企業の条件として、すぐ頭に浮かぶのは売上高や業績、もしくは株主の利益の最大化など、どれだけ企業の数字が素晴らしいかかもしれない。しかし、世界で様々な社会問題が発生している現代において、いかに企業が環境や社会に配慮し、透明性のある事業をおこなっているかこそ、本当の意味での“善い” 企業なのではないか。そんな“善い”企業を国際的に認証し、株主利益だけでなく、従業員や顧客、環境やコミュニティなど全ての関係者の利益を優先する公益性の高い企業や社会貢献する企業を増やしていくためのしくみとしても機能する制度が「B Corp (B Corporationの略)」だ。

アメリカ、ペンシルヴァニア州を拠点に活動する​​非営利団体の「B Lab」により2006年に発足され、これまでの企業の常識を覆す存在となったB Corpは、今や世界的なベンチャーから大企業、投資家までもが支持している。私たちの生活にも馴染み深い アウトドアブランドのPatagonia (パタゴニア)や 自然派化粧品ブランドのAVEDA​​ (アヴェダ)などもB-Corpの一員として知られ、他にも80ヶ国以上で6000を超える企業がB Corpを取得している。これほどまでに賛同や共感を得ている理由は、私たちが普段当たり前のように暮らしているこの世界は、自然環境や労働問題、差別や格差をはじめとした社会的な課題を数多く抱え、解決する以外に道は残されていないからだと思う。

B Corpを語る上で欠かせないのが、実際の取得時のファーストステップとなる「B Impact Assessment(BIA)」と呼ばれる独自の評価基準だ。この200問を超えるアセスメントは「従業員」「コミュニティ」「環境」「ガバナンス」「顧客」の5項目で構成され、以下のように様々な要素が網羅されている。


従業員  ー 『雇用形態を問わずに従業員や取引先に生活賃金を支払っているか』
コミュニティ ー 『女性や有色人種、LGBTQや障がいがある人、低所得者など、これまで周縁化されてきた人たちを採用しているか』
環境  ー 『温室効果ガスの排出量を監視、記録、削減しているか』
ガバナンス ー 『社会的、環境的な責任を会社のミッションステートメントとして文章化しているか』
顧客  ー 『顧客満足のための具体的な目標を設定しているか』

各質問は認証の取得に関係なく、現在の地球や社会がどのような問題を抱えているのかを理解する重要な気付きにもなり、“善い” 経営していく上での指針となることは間違いない。もちろん個人でも、一問ずつ目を通す価値はある。他にも厳しい基準や審査などのプロセスがあるゆえ、認証を受ければそれだけで一定の信頼を得られるかもしれないが、実際の取得企業を見ていくと、より善い社会作りのためのエンパワーメントとしてビジネスを活用し、明確なビジョンや目的意識を持っているような印象を受ける。

本国のアメリカはもちろん、カナダやイギリス、チリやブラジルといった国々と比べてまだ数は少ないが、2023年5月時点でB Corpを取得した日本企業は23社と徐々に増えつつある。昨年にはB Corpのバイブルとも言える『The B Corp Handbook, Second Edition: How You Can Use Business as a Force for Good』の日本語訳版『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』が出版された。また、今年の3月にはB Corpイベントの「Meet the B​​」が日本で初開催され、会場ではB Corp企業からゲストを招いたトークセッションや、オープンな交流会も行われ、これまでになく身近な存在になりつつある。

『B Corpハンドブック よいビジネスの計測・実践・改善』の表紙
撮影: 西田香織 (Kaori Nishida)

実際に「Meet the B」に伺う機会があったのだが、中でも特に印象的だったのがB Corpを代表する企業の一つであるAllbirds (オールバーズ)で、サステナビリティマネージャーを務めるハナ・カジムラ氏が話した同ブランドが取り組んでいる内容だった。環境負荷の低い素材選びやデータを使った需要予測、そして各国への輸送方法を可能な限り海上輸送へ切り替えるなど、その徹底ぶりにもかかわらず、まだまだ解決すべき問題はあると指摘していた。B Corpの取得はあくまでスタートであって、常により良い企業へと改善しようとする姿勢こそが重要なのだろう。

イベント 「Meet The B」
撮影: 西田香織 (Kaori Nishida)
「Meet The B」の風景、B Corpを取得した日本企業のパネルが並ぶ。
撮影: 西田香織 (Kaori Nishida)

B Corpは企業認証ではあるが、その本質は私たち一人一人がリーダーシップを発揮して、普段の生活から使命感や責任を持つことだと感じる。もしその理念に共感するなら、そういった企業をサポートすることだってできる。企業や個人など立場は違うが、重要なのはいかに考え、行動するかだ。そして誰一人として経済システムから搾取されず、本来の意味での豊かさと公平性を保った、全ての人が住みたいと願う社会の創出のためにも、学ぶ心を忘れず、意識的に動ける人間でありたいと思う。

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